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旅立つ直前のゆっくりさんとうp主。
この世界における「ゆっくり」やら「うp主」やらの扱いについてかなり捏造してます。
「……はあ」
盛大な溜息をつきつつ帰路に着く自分を目撃した村人たちはきっとこう思ったことだろう。ああ、また彼女に負けたのか、と。
そしてその度合いからこうも思うのだ。これはまた彼女に難題を吹っかけられたな、と。
彼女とは、旅立ちの村の少し外れた場所に住んでいる凄腕の情報屋のことだ。必ず良質の情報を提供してくれる代わりに値段は割高。しかし条件次第でその値段を安くしてくれる。
その条件というのが巷では「桃鉄」と呼ばれる特別な双六で彼女に勝利することであり、彼女との得点の差に応じて情報代の割引を行ってくれるのだ。もしも彼女に完勝することが出来たならば何万という情報量がただになるということもあり、この勝負を引き受ける者は非常に多い。そして実際に彼女に割り引いて貰えた人間というのも一定数は確実に存在しているのがそれに拍車をかけている。
しかしながら、世の中甘い話ばかりではない。彼女に負けた場合は難題を吹っかけられるか更に料金が割高になるかの二択を迫られるのだ。難題は本当に無理難題ばかりなので、大半の者は仕方なく後者を選ぶ。割高とはいえ法外な値段を上乗せされるわけでもないので、基本的には全員素直に払ってくれるとのことだ。
無論、中には暴力に訴えてなかったことにしようと目論む輩は存在する。だが彼女にはチートだろうと言いたくなる反則術の数々を使いこなす親友がついているため、全員が返り討ちに遭った挙句素寒貧にされるのが恒例行事だった。
自分の場合は彼女と勝負をするのは情報代のためではなく、単に友人である彼女と遊んでいるだけに過ぎない。しかしながら彼女は友人相手でも容赦なく負けたときのルールを適用するため(しかも情報代が絡んでいないので必ず無理難題を吹っかけられる)、今まで何度も難題を吹っかけられてきた。勝てば逆に吹っかけられたり達成していない難題をチャラに出来るのだが、今のところ負け越している。
だから自分としてもちょっとやそっとの負けでは動じなくなってきていたのだが、今回は別だ。稀に見る大敗をしてしまった自分に対し彼女が吹っかけてきた難題は、今までの難題が児戯に見えるものであったのだから。
何度目かわからない溜息をつきつつ、我が家の敷居をまたぐ。すると奥の方からぴょこぴょこと跳ねてくる者がいた。
「よ、うp主。また負けたの?」
今の己の気分にはそぐわない至って明るい声。いつもならばこれを聞くことで気持ちをある程度切り替えることが出来るのだが、今日ばかりはその作用はないようだ。
「ゆっくりさん……またって言わないでください。事実ですけれども」
また溜息をつき、自分は頭を振った。
そんな自分を見て、目の前にいる生首……じゃなかった、おまんじゅうはクスクスと笑っている。ちょっとむかついたが、これもいつものことなので怒る気にはなれなかった。
このおまんじゅうことゆっくりさんは、喋る人の顔をしたおまんじゅうという非常に変わったゆっくり族という生き物だ。本来は鬼ヶ島の近くに住んでいるのだが、基本的に好奇心が旺盛であるため人里にまで現れることもよくあるという。このゆっくりさんも随分昔にこの近くの森で迷子になっているところを発見され、以後旅立ちの村に住み着いているのだった。
そんなゆっくりさんが今現在自分の家に住んでいるのは、自分が「うp主」だからである。
うp主というのは名前ではなく職業名のようなもので、歌や踊りを披露したり冒険をしてその体験談を語ったりして人々を楽しませるエンターテイナーの総称だ。大半は最初の頃はうp主と名乗り、場数を踏むにつれて次第に独自の芸名を名乗り始める。自分はまだまだ駆け出しなので芸名はなく、自他共にうp主と呼んでいるのだ。
ゆっくり族はそんなうp主と非常に相性がよく、ゆっくり族と一緒に冒険をしたり歌ったりするうp主も数多く存在している。そのため、旅立ちの村の中で1番未熟なうp主である自分がゆっくりさんを押し付けられ……もとい、コンビを組むこととなったのであった。
「それで、今回はどんな難題吹っかけられたの?」
ニヤニヤと笑いながらゆっくりさんが好奇心に満ち溢れた目で問うてくる。
「それがですね……桃太郎の鬼退治に同行しろって言うんですよ」
「……は?」
流石にゆっくりさんも自分の言葉の意味がわからなかったらしく、クリクリとした目をパチクリとさせている。
月の宮殿に危機が迫っていると月の使者に告げられて牛車で月に飛び立っていった桃太郎が大怪我を負って天から降ってきたのが3日前。その状況からすれば、また彼が鬼退治の旅に出ることは誰の目にも明らかであった。
だが敵は6年前にえんま王をも退けた桃太郎に深手を負わせるほどの手足れ。6年前以上に厳しい戦いになることは目に見えている。
その旅に一般人である自分に同行しろと言うのだから、まさに鬼畜としか言いようがない
「一応、この体験談を語ればうp主として大成出来るだろうからという理由はあるみたいなんですけどね……」
「後付けバリバリだね」
「……ですよね」
更にもう1度、今度は最も盛大な溜息をつく。
うp主という職業は戦闘力には欠けるが、最後の1人にならない限り攻撃を受けないという特性を持っている。そのため冒険の体験談を語るうp主は他の旅人に同行する形になることが多く、相手の方も守る必要がほぼ皆無であるため足手纏いにはならないからと同行を許す方が多い。
その点ではゆっくり族も似たようなものであり、こちらはそこそこの戦闘力を有しつつもその特性を持っているため、特に1人旅の人間にとってはうp主とゆっくりのコンビの同行は非常にありがたいものだったりする。
しかし、今回はその特性を持ってしても危険な旅だと言わざるを得ない。何しろ相手は、鬼の大将格なのだから。
「でもまあ、またとないチャンスではあるよね。ゆっくりたちは桃太郎と顔なじみなんだし、言えば連れてってくれると思うよ」
「あ、やっぱりノリノリなんですね、ゆっくりさん」
ちょっとだけ危ないからやめようと言ってくれることを期待した自分が悲しい。
「そういえば、さっき桃太郎の家に銀次が走っていったよ。もしかしたら銀次も同行するつもりなのかもね」
「ええっ! 銀次も!?」
そのゆっくりさんの言葉に、自分の中で益々行きたくないという思いが膨らんでいく。
スリの銀次が現役だった時代に被害に遭った身としては、改心したとはいえ彼と同行するのはあまり歓迎出来ない。というか、したくない。
「ほらほら、いつまでもうだうだ言ってないで行くよ、うp主」
着々と天秤を行きたくないの方に傾かせる自分を他所に、ゆっくりさんは自分の足を銜えて引き摺るように歩き出していく。
明らかに体格では自分の方が有利であるはずなのにふんばることも出来ずに引き摺られていってしまう辺り、ゆっくりさんの馬鹿力さが窺えるというものだ。
「ちょ、待ってくださいゆっくりさん! せめて、せめて支度だけでも……!」
そう言いながら自分は入り口にしがみついた。
……が、突然その背中をどんと押されて手が離れてしまう。
「なっ……!」
瞬時にそちらを振り向くと、そこには何時の間にいたのか、笑顔を浮かべながら全力で自分の背中を押した鬼畜友人の姿があった。
長い長い旅の、そんな始まり。